2014年12月15日月曜日

archaiclightbody実験目撃メモ

archaiclightbody #3「抱きしめあうと眠りづらい」
2014年10月8日
ユースクエア(名古屋市青少年交流プラザ)プレイルーム


 日が短くなった夕方の住宅街を急ぎながら、この道のりにもすっかりなじんだな、と思った。北区役所に程近い、青少年育成を目的とした名古屋市の施設ユースクエア。その一室「プレイルーム」は、演劇やダンスの発表会などに若者が格安で優先的に利用できる。いかにも行政の運営らしい保守的な健全さにあふれているため、やさぐれた大人には縁遠い場所だが、この2年ほど数カ月おきに行われているコンテンポラリーダンスの公演が見逃せなくて、せっせと足を運んでいる。
 仕掛人は名古屋を拠点に活動するダンスカンパニーafterimage(アフターイマージュ)のメンバーたち。ここではカンパニーとしてではなく、各メンバーが独自に活動を展開している。面白いと思ったダンサーを東京から呼んで公演を主催したり、カンパニー外のダンサーと組んで作品を発表したり。ここは名古屋のダンスシーンを刺激する実験室なのだ。
 archaiclightbody(アルカイックライトボディ、以下アルカイック)は、そんなafterimageの主宰・振付・ダンサーを務める服部哲郎が杉山絵理と結成したダンスユニット。今回、今年の企画第3弾として、処女作(2011年初演)にがっぷり取り組んだ公演を行った。コンセプトは、再演を重ねてきたこの《抱きしめあうと眠りづらい》をさらに「様々な角度からいじり倒す」。
 まずアルカイックによるストレートな再演。そして後半は、今年愛知で結成された男女のデュオSen×Haruが同作品のリメイクを上演した。この作品は小道具が2脚の椅子だけというシンプルな舞台で、メランコリックなピアノが静かに刻むリズムに乗り、一組の男女がコンタクトインプロヴィゼーションの手法をベースに踊る。余計な装飾が無く、踊り手の身体の動き、そして二人の間で生まれる力の動きが主役だ。歩く、止まる、跳ぶ、伸びる、縮む。押す、引く、反発し合う、受け止める、離れる、触れる。それ自体がダンスになっている。いや、そもそもあらゆるダンスがそういう構造だったか、とふと思う。ミニマル過ぎず、親密さと敵対、共感と反発など人と人との間で生まれる感情の機微をまとっていて、日常的な物語に思いを巡らせる幅がある。
 そこから作品に広がりを加えるのは観客だったり、演者だったりする。アルカイックとSen×Haruとでは作品の印象は大きく異なった。アルカイックの場合、二人は恋人同士にも、兄妹/姉弟にも同志にも見えた。観客各々の目に違って映ったはずだし、シーンごとにも変化した。表現がストイックなため、見ていて想像力が働く余地が大きい。一方Sen×Haruは、アルカイックから手渡されたこの作品を恋愛初期の二人の物語として解釈し、提示した。男女の関係の描き方が少し類型的にも見えたが、より表情豊かで演劇性が高い。艶っぽく濃密な一幕を堪能した。
 こうして2組の踊りが並べられることで、《抱きしめあうと眠りづらい》という作品の骨格と魅力が一層見えてきた。また、2つの上演は「Dancer View」という映像の上映を挟んで行われた。服部と杉山がそれぞれ目の横に小型ビデオを装着して踊り、ダンサーの目線から同作品を見せるという試みだ。結局一作品を一晩に3回見たわけだが、全く飽きなかったし、終演後の小さなロビーで自然と顔を合わせることになる出演者に反応を伝えることで、この実験への加担を楽しむこともできた。振付の服部は、この作品にはまだまだ可能性があると話す。この実験を経て今後どう進化していくのかを追っていきたい。



                                                                       egg:神池なお

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