2014年11月19日水曜日

質感の動きを求めて~ジャン・フォートリエ回顧展

2014年7月20日9月15日
 豊田市美術館
   
 時代とともに変遷し、たどり着いたフォートリエの抽象画はジャズに重なる。
豊田市美術館で没後日本初の「ジャン・フォートリエ」の回顧展が開かれている。代表作と言われる「人質」連作を始め、彫刻・版画を含む90点に及ぶ作品を時系列で見ることができる。1898年生まれのフォートリエは幼少期、アイルランド人の祖母にフランスで育てられ、その後ロンドンの母の元へ行き、のちにアカデミーで学んだ。初期作品は当時のレアリスムの影響を受けた肖像画が並ぶ。緻密な描写だが、そのどれもが人間の内面まで見抜いたような表情。暗い色調も、悲しげで苦悩に満ちた表情を増幅させる。彼の身近な人物を描いているとされるが、それらは実在する人物というより彼の心に映った人々である。
フォートリエの作品はその厚塗りの絵の具の物質感によってイメージを固定するかのような抽象絵画へ変化していく。油彩、紙、顔料などさまざまな材料で質感を求め、ブロンズによる造形にも挑戦した。一連の「人質」作品はゲシュタポに捕えられた人間の極限の姿を質感に投影し、人類の暴力を留めようとしている。
「人質」の連作から一転、戦後描かれるのは明るい色調、平穏を取り戻して《コーヒー挽き》《糸巻き》《鍵》《籠》と生活感のある対象に変わり、《こちょこちょ》《ふとっちょ》と可愛らしいタイトルまである。続く《オール・アローン》はフォートリエのお気に入りのジャズピアニスト、マル・ウォルドロンの曲名から。制作時は絶対的静寂を求め、誰も立ち入らせず、音楽・書籍・風景などの記憶に基づき、絵画に向き合ったという。
戦後、フランスのアンフォルメルの源流と評された彼は、抽象画について「具象に足りない部分がある」から「事物を分析して新たな形象を生み出したかった」と語り、それは「自由に表現することが許されている」ものだという。彼にとっての抽象画は、イメージの質感を動きそのものに託す、すなわち自由に塗り重ねる筆致として表現する自由な精神であり、それはまさにジャズと重なり合う。
スタン・ゲッツ、ジョアン・ジルベルトの(1964年録音)ジャケットはオルガ・アルビズの抽象画だ。戦後に描かれたフォートリエの《無題(四辺画)》《草》などはオスカー・ピーターソン、ジョン・コルトレーンのレコードジャケットにと想像してみる。時代は人種差別や戦争などさまざまな闇を抱えていたが、その中に一筋の光を見出し、打開しようとする精神がある。だが、あくまでも軽くスィングしてかわすようなスタイリッシュな手法だ。晩年のフォートリエも聴いただろうかと思い巡らした。

                               egg:三島郁子


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