2014年11月10日月曜日

藤原泰佑 展 《Re:Born》

藤原泰佑 展 《Re:Born》
2014年6月22日(日)~7月20日(日)
ギャラリーM
 
 以前から気になっていた藤原泰佑の個展。風邪にめげず、オープニングパーティには行くべきだった。
 春に行われた、同ギャラリーでの作家6人展を見て以来、藤原さんの異形ともいえる構築物を描いた作品は、若手作家の中でも異彩を放ち、脳裏に焼付いたままでした。その奇妙なものは、10階建以上のビルディングに相当する大きさだけれど、きちんと設計・施工されたわけではなく、レトロな看板の商店や古い家屋を無造作に積み上げたようなものです。「松崎商店」「○田ふとん店」等の商店名、「ブリジストン」や「ナショナル」などのよく知られた商標の看板も見える。まるでモクモクと湧き出た積乱雲が、建築物の姿を借りて地上にデンとそびえ立つ様な、周りを圧倒する程の存在感を醸し出しています。
 顔を近づけて絵の詳細を見れば、個々の家は、必ずしも完全な形を保っているわけでなく、半分くらいが薄く消えているものさえあることがわかります。藤原さんは、実在する商店や家屋をカメラで撮り、パソコン上で画像を重ね合わせました。あるものは商店全体を、またあるものはシャッター部分だけ、屋根の部分だけ、どこかわからない家の一部分を、コラージュの様に画像データを張り合わせ、その後、それらの上に油彩などで彩色を施しました。看板の派手な色と大きな文字、壁のくすんだ灰色、実際とは異なるであろう原色に近い彩色等が渾然一体となって、その構築物の持つ猥雑なエネルギーを表現しているようです。
 藤原さんは、東北(山形県)在住で、2013年に東北芸術工科大学大学院を出たばかりの若い作家です。同大学には、教授として美術家の三瀬夏之介さんがいます。三瀬さんといえば、「東北画は可能か?」という共同制作・展覧会活動を思い出します。その活動とは何か、サイトの説明によると、
「東北という辺境において、その地域名を冠にした絵画の成立の可能性を探る試みである。『東北』と一括りにされた風土、価値観に対するローカル地域からの逆襲でもある」 
とあります。
藤原さんも学生時代に、「東北画は可能か?」の活動に参加していたようで、その頃から、地方のあり様に関心があったのでしょう。彼のインタビュー記事には、「もともとあった地域の商店街のエネルギーは、大きなビルに収まり切れないくらい大きい」「この商店街のエネルギーを、消えゆく前に描こうとおもいました」とも言っています。
 なる程、赤黄緑等の原色による彩色は、エネルギッシュな感じで、都市の雑踏の、猥雑ではあるが活気に満ちた雰囲気を想起させます。しかし、その原色のペンキの汚れや、家屋の壁の剥がれ、閉じられた雨戸を見ると、私はどうしても、地方のシャッター街を思い出さずにはいられません。昔、私が子供の頃住んでいた田舎町では、「ナショナル」の看板を掲げた電気屋は、夢と活気の象徴でした。でも今は衰退の象徴です。藤原さんも、きっと同じ思いなのでしょう。活気溢れる商店街を思い起こしながら、地方再生の願いも込めて「Re:Born」というタイトルにしたのだろうと思います。が、描いたものは、悲しいまでに未来を失った街の残骸にも見えます。
 藤原さんが描いているのは、かつての街の、燃え上がる様なエネルギーの残渣なのか、再生に向けた旗印なのか、そんなお話をお聞きしたいと思っていたのですが。
              
                            egg:多田信行

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