2014年10月22日水曜日

大西康明『垂直の隙間』

2013年8月3日 (土) - 2013年9月16日 (月) 
京都芸術センター ギャラリー北・南ほか


144年、かつての小学校の教室をホワイトキューブ化した展示空間。奥の一面のみが黒い。2面の壁と床の接触辺で線上にのびるライティングが唯一の光源。その中央に浮かび上がるのは、白い結晶で覆われた樹木の森のような作品である。

 高さ2m超の木の枝を何本か天井から逆さに吊るす。中央は高く周辺はやや低く、立体的に配置して森のようなまとまりを形成する。
それから、半透明の液状接着剤を枝から下にしたたらせ、細い糸を引いて固まった接着剤によって枝と床を線でつなぐ。この工程をどれだけ繰り返すのだろう、やがて枝と床は無数の垂直線で接続される。
 さらに全体に尿素の飽和水溶液を吹きつけると、作品表面とその床面はすべて、表出した白い結晶でおおわれる。

 上部から見ていくと、枝は逆さに吊るされたため、葉に隠れて目につかない裏側の曲線を上部にさらけ出し、枝であったことを忘れさせる。それは、吹雪のかなたに屹立する雪山の稜線のようでもあり、宇宙空間にむかって立ちのぼるオーロラの上端のようにも見える。
 そして、露わになった曲線に対する意識は、そこから垂下する無数の線によって支持されていると気づく。

 垂直方向に枝と床面をつなぐ線は、一つ一つは蜘蛛の糸のようにか細く垂れ下がり、それをたどって何かが上から下へと流れ、床面と親和する。
 垂線のたどり着く先である床面はすでに(床)の概念を超越して( ground ) 【※地面、地球の表面、あるいは接地】のイメージに変容する。
いっぽう、目線を下から上に戻すと、垂線はすぅーっとgroundから立ち上がっているようにも見える。俯瞰すると、結晶の森が垂線を支持体にふわっと伸び上がる上昇感すら感じる。

作品全体を覆う結晶のひとつひとつは、幾何学的な造形美をみせると同時に有機的で、人工と自然の両方でも、そのあいだでもある。
結晶をつぶさに見ていくと、圧倒的に人間の手を離れたミクロの造形世界に迷い込む。我々が立ち入ることのできない領域を覗き見るような感覚だ。

垂線をてがかりに、上から下へ、下から上へ、着地したり上昇したり、様々な概念の間を行ったり来たり・・
背面の黒のおかげでなんとかそのアウトラインをたどることができるが、フレーミング無くしてさまようには危険な世界の探検である。

背面の黒とは、壁一面に張られた大西の平面作品であるが、こちらは、一面に細かい凹凸の痕跡を残しながら定着させた黒い接着剤をベースに、グラファイト粉を全面塗布して光沢を出し、さらにホットグルーガンの先端で引っ掻いて内層の黒を部分的に露出したり、追加の接着剤を塗布する、といった工程を経ている。
遠目では(黒)という大雑把なイメージだったが、よく見ると執拗なほどの手数をかけて制作された痕跡がせまってくる。
もう一度俯瞰すると、その痕跡が光を複雑に吸収・反射しながら、なんだかわからないがそこにある気配を後方から醸し出す。

黒の気配を感じながら白い垂直の隙間に見た世界は...うたかたの夢の如く。


egg:竹市朋世

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