2014年10月20日月曜日

昭和40年代への憧れを表現した屋台インスタレーション

菅沼朋香《まぼろし屋台》
アーツチャレンジ2013
2013年1月22日~3月2日
愛知芸術文化センター

    
 今年のアーツチャレンジ2013で、一風変わったインスタレーションを見かけた。愛知芸術文化センター地下2階、階段下の踊り場に展示されていたのは、《まぼろし屋台》。屋台と言っても、ラーメン屋台の様な質素なものではなく、山車とまではいかないが、高級材を使用した家具調の作りになっている。正面カウンターの奥には「幻(まぼろし)」文字の照明看板、左右には蕾み型ペンダント、ビーズのれん、観光土産ペナント、「昭和88年」の日めくりカレンダーまである。奥の棚には、昔に流行った演歌・歌謡曲からグループサウンズまでのレコードが並べられ、隣に置いてあるレコードプレーヤーで聴く事ができる。土産物のこけし、東京タワーの模型などがあいた空間を埋め、全体を包む昭和の雰囲気が懐かしい。
 屋台の右隣に、かなり旧式のブラウン管型テレビがあって、《幻(まぼろし)屋台》を上映している。作者の菅沼朋香が、名古屋でも寂れた地域となった円頓寺商店街に、まぼろし屋台を繰り出し、商店街の人々と酒を飲み、おでんをつつく和やかな様子を、演じている。
 会期後半には、菅沼自身が屋台の中に入り、訪れた鑑賞者を相手に歓談し、リクエストのあった曲を、レコード・プレーヤーで演奏するといったパフォーマンスを見せていた。昭和40年代の世界の再現である。
 菅沼の昭和への憧れは、徹底している。住いは、円頓寺商店街の中にある昭和にタイムスリップした様な喫茶店“まつば”の2階。部屋の中は、昭和ムードの小物で飾られ、自身も、当時流行ったベルボトムやミニスカートで着飾っている。今は名古屋芸術大学デザイン学部の助手を行っているが、出勤時もそのスタイルを通している。また、今でも昭和の面影を残している場所、喫茶店等をリサーチし、写真に手書きの説明を加えたアートブック、《バックトゥーザ昭和(2011)》、《今年は昭和87年(2012)》を製作、販売している。更に続編も出てきそうな勢いではあるが、何故これ程までに昭和に憧れるのか。
 菅沼は、2008年に名古屋芸術大学デザインコースを卒業後、デザインとは無縁の広告会社に入り、営業を担当。本人によれば、「テレアポして1日何軒もまわって、契約とりまくり、数字に追われるガツガツの」営業をしていた。「超資本主義で、まわりは20代の若者と30才の部長」の様な会社で働き続け、最後には過労で倒れてしまった。
そんな時、彼女を癒したのが、昭和の雰囲気を守り続けているような喫茶店や居酒屋だった。利益追求最優先でなく、気さくなマスターと常連客がコーヒー一杯で1、2時間も話に花を咲かせるといった事が新鮮で、そのふれ合いが癒しにもなった。
 しかし、これらは、表面的な理由だ。今の若者が抱える問題は、未来に期待が持てない事だ。彼らの親は、まじめに働きさえすれば、必ず「親よりも良い生活を実現できる」世代だった。今は違う。彼らは、普通の人間が、経済的に親を超える事など、到底無理と確信している。菅沼が、昭和にこだわる理由もそこだ。日本という国が、再び高度成長するなど誰も考えてはいない。皆が同じ様に、経済的幸福への道を歩もうとするのは、無いものねだりなのだ。
 ならば、自分の充実した人生を作り上げるには、自分の価値観を基準とするしかない。人々との暖かなふれ合いや絆、コミュニケーションの充実など、彼女にとって、「憧れの昭和世界」は、未来への希望なのだ。




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