2014年10月22日水曜日

やなぎみわ《案内嬢パフォーマンス》 ―白昼のホットメディア―

やなぎみわ《案内嬢パフォーマンス》
あいちトリエンナーレ2013
2013年8月10日(土) ~ 11日(日)
愛知芸術文化センター フォーラムⅠ


 やなぎみわの《案内嬢パフォーマンス》は愛知芸術文化センターの劇場ではなく、2階から10階までの陽が良く入る大きな吹抜けのスペースで昼間の時間帯に行われた。したがって音響効果はある程度使用できたが、照明効果は使えなかったにもかかわらず、良く観者を集中させることができた。
 映画や演劇、ダンス、音楽などホールや劇場といったいわゆるブラックボックスの中で行われる舞台芸術は、観客席など周囲を暗くしスポットライトで観客を舞台に集中させることが容易だ。つまり、観者を感情移入に誘導しやすい。マーシャル・マクルーハン流に言えば、ホットメディアといえよう。
 一方、絵画や彫刻、写真などの造形芸術は、一般的にはホワイトキューブと呼ばれる美術館の展示室に設置されることが多い。観者は作品を客観視して批評眼を働かせて鑑賞することになる。対比的に言えばクールメディアである。
 そういう意味で、照明効果や音響効果が使えない白昼下のパフォーマンスはどちらつかずで、観者もスタンスを取りにくい。家庭で昼間にTVやビデオを見ているようなカジュアルな感覚に近い。最近のビデオインスタレーションと呼ばれる形式では画面を大きくし、薄暗いホワイトキューブで展示することによって、この問題を解決している場合も少なくない。ホワイトキューブとブラックボックスの境界は曖昧化している。
 さて、今回の《案内嬢パフォーマンス》は、観者にはあらかじめFMラジオが手渡され、イヤホンで台詞や効果音を聞くことになる。このイヤホン、ホットメディアの役割を発揮し観者を音響的に集中させることにかなり大きな効果があった。登場人物はやなぎの十八番の案内嬢だが、20分間ほどのパフォーマンスであったので、ストーリーは演劇というほどの筋があるわけではない。「ラジオ・東京」という米国に対するプロパガンダ放送と、サミュエル・ベケットの《ゴドーを待ちながら》を引用、融合したもの。案内嬢は「ラジオ・東京」のアナウンサーも演じた。
 古くはワーグナーの楽劇、新しくはピナ・バウシュのタンツテアターを意識すれば、今回のやなぎは、ダンスと演劇に、アナウンスという話芸を加え、それにラジオを盛り付けた欲張りな形式となっている。このようにホットメディアとクールメディアとの混在構成でありながら、観者の意識を少しも弛緩させることがない構築力が光った。



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