2014年10月23日木曜日

あいちトリエンナーレの作品解説に挑戦!:トーマス・ヒルシュホルン《涙の回復室》

トーマス・ヒルシュホルン《涙の回復室》
あいちトリエンナーレ2013
2013年8月10日(土) ~ 10月27日(日)
愛知芸術文化センター会場


 彼がいつも使う素材は、日常にありふれた安物の材料や日用品である。この《涙の回復室》でも、ガムテープ、アルミホイル、ビニール、段ボール、ブルーシート、日曜大工用の華奢な木材などが用いられている。そして、常に作りが雑だ。特にガムテープなどは、わざと不器用に貼っているのではないかと思えるほど無造作である。
 しかも素材がむき出しなので、何を象ったのかわからない。全体的には野戦病院の手術室のような感じがするが、アルミホイルの長い管状の物や玉状の物、段ボールの敷物状の物が何を意味するのかは不明瞭である。
 しかし、何か大変な事態が起こり、その緊急対応のため、あり合せの物で準備したような印象だけは漂う。ただし、その大事件、大事故が何なのかを想像する手がかりはない。《涙の回復室》という題名から、何か極めて悲惨な出来事が起こり、その心の傷を癒すための場所と推察できるのみである。
 乱雑な造作は、その作品のイメージの抽象度、多義性を高める。解釈は最大限、観者に委ねられている。ただし、作者は、何か大きな出来事を記憶するためのモニュメンタルなものとは違ったものを示そうとしていることだけは確かだ。我々は、何かを強く記憶にとどめようとするとき、往々に記念碑を作りがちだ。記念碑は頑丈だが、威圧的で押し付けがましい。それに対し、ヒルシュホルンの作品は、あまりにも安っぽく粗雑で脆弱だからこそ、かえって心に深く沁み入るのだ。
 《涙の回復室》は再制作である。この作品は、何度も繰り返し様々な場所に仮設されることで、世界のどこかで絶え間なく起こる様々な災厄から我々の心を、時間をかけてゆっくりと回復させる効用を持っている。


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